はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
もう1本書いてみよう。
最初の記憶だ。
私の最初の記憶は、ある日の夢からだ。3歳だった。
私は、自分の姿を天井から見ていた。
3歳の私は、薄暗い部屋の真ん中に置かれたベッドに、仰向けに寝せられていた。
白衣の老人が私に何か処置をしていた。
かちゃ、かちゃ、と、金属がぶつかり合う音が、薄暗い部屋に響いていた。
もじゃもじゃの白髪の老人は、私の腹部をしきりにいじり回していた。
天井からは手元の様子はうかがい知ることは出来なかった。
ややしばらく、老人は、私の腹に手を突っ込んで何やらかちゃかちゃしていた。
「出来た……」
老人はそういうと、私の腹部の扉を閉めた。
「さあ、目を開けてごらん」
老人の言葉に促され、ベッドの上の私は、ぱちり、と目を開けて、ゆっくりと起き上がった。
「これでもう大丈夫じゃよ」
老人…博士は信じられないぐらい大きな団子鼻を右手の人差し指でこすりながら言った。
「はい」
起き上がった私は博士に向かってそう言った。
次の瞬間、私の意識はベッドの上の私に吸い込まれていった。
同化した私達に向かい、博士が何やら難しい事を言っていた。3歳には理解が出来なかった。
そこで、目が覚めた。
ゆっくりとお腹に手を当ててみたが、腹には、扉はなかった。
が、私は完全に、自分が、人間ではなくロボットだと、もっと言えば、鉄腕アトムのウランちゃんだと思っていた。
何故なら、自我が芽生えた、最初の記憶がこれだからだ。
博士はどう考えてもお茶の水博士なのだ。お茶の水博士の開発により、私が誕生したのだ。
んなわけあるかいな。
この思い込み、意外と長く続き、なんと小学校に上がる頃まで続く。
何でそんな夢を唐突に見たのかは、分からない。
何せ、それが人生の一番初めの記憶だからだ。
だから、前日に鉄腕アトムの再放送でもあったのか、それは分からない。
もう少し後だったら、ベルサイユのばらが最初の記憶になったかも知れない。
フランス王妃の生まれ変わりだと思い込んだ夢から始まる人生だったかもしれないと思うと、
やっぱウランちゃんで良かったなと思う。
何故か。
そんな、40年程前の記憶。